Jul 07, 2011

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 【増城市(中国)】「ハッピー広東」――中国南部の輸出拠点である広東省で、野心家の共産党トップが唱えたスローガンだ。今年は「ハッピー・広東」元年になるはずだった。

 しかし先ごろ、楽しげなスローガンとはまったく異なる状況が現れた。広東省のジーンズ製造拠点である増城市と、セラミック生産の中心地である潮州市で、出稼ぎ労働者が政府の建物を攻撃したり、警察車両を横転させるなどの大規模の暴動が発生した。中国各地では過去1カ月にわたって、同様の暴動が相次いでいる。

 広東省の暴動は中国の中央政府指導部に対し、やっかいなメッセージを送ることになった。広東省の多くはハッピーではなく、危険なまでに不満である、ということだ。そして、中国で最も豊かで、急速な発展を遂げている、人口の最も多い広東省で起きることは、国内の他の地域が今後進む方向を示すことが多い。

 他の都市部でも、一般の人々の怒りは今夏、すでに頂点に達している。その背景には、あつれきを生む多くの社会問題が噴出し、「和諧社会 (協調のとれた社会)」を建設するとした共産党の5カ年計画が妨げられていることがある。問題の中でも最も顕著な例が、拡大する貧富の差と猛威を振るうインフレだ。中国人が好む豚肉の価格は1年で54%も上昇した。

 しかし、省の指導部は、社会秩序を維持するよう高まり続ける圧力を受けて、中国が直面している最大の課題について中央政府から明確な指導がないまま、決まり文句と暴力の合わせ技で対応している。この中国最大の問題とは、広東省で始まったものの、活力を失いつつある輸出主導型の経済モデルと中国はどうやって決別するか、である。

 痛みを伴うこの変化の最前線にいるのが、「ハッピー広東」のスローガンを作った広東省党委員会書記の汪洋氏だ。汪氏は、中国共産党中央政治局常務委員会のメンバーの有力候補と目されている。中央政治局常務委員会は9人のメンバーで構成される中国の最高意思決定機関で、来年、10年に一度の人事交代が行なわれる予定だ。

 汪氏は今回の暴動前に行なわれた書面での独占インタビューで、今年1月にハッピー広東」のスローガンを開始したと同時に、広東省の今後5年間の目標成長率を引き下げた理由を説明した。広東省は今後5年間の目標成長率を年8%に引き下げたが、これに対し、過去5年間の年間の平均成長率は12.4% だった。

 汪氏は「成長の質を少し改善するため、成長に少し時間をかけたい」と述べた。さらに「経済の規模で言えば、私たちはすでにシンガポールを追い抜いた。しかし、人口一人当たりの国内総生産(GDP)、幸福、社会的文明の点でもシンガポールを抜きたいと考えている」と語った。

 しかし、汪氏は広東省1億400万人の住民--特に2500万人の出稼ぎ労働者--の幸福感をどのように向上させるつもりなのかについては詳細を明らかにすることを控えた。「幸福」について齟齬(そご)がない定義を示すのに苦労しているようだった。

 汪氏はイスラエル人の作家で講演家のタルベン・シャハ-氏の著作「Happier」から引用して、「いわゆる幸福とは、喜びと意味が交わるところにある」と主張した。タルベン・シャハ-氏はスカッシュの元チャンピオンで、かつてハーバード大学で「ポジティブ心理学」のコースを教えた経験がある。

 汪氏は幸福の概念を広東省全体に当てはめようとしつつ、「個人にとって、幸福とは物事をどう受け取るかの問題であり、主観的な概念だ」と述べた。「しかし、グループ全体、地域全体にとって、自分たちが幸福であるかどうかを判断するための共通の価値を持つことが、私たちがともに追求し、楽しみ、築くべき人生の状態であり経験である」

 汪氏の回答があいまいに終始したことから、広東省にも中央政府にも政策の方向性がないことは明らかだ。党指導部は中国の今後5年間の目標成長率―多分に象徴的な数字だとみられている―を年7%に引き下げる一方で、「幸福」に焦点を当てて、インフレ、汚職、土地の争奪など社会的関心の高い課題に取組むことを約束している。

 今回の暴動は、汪氏にとって都合が悪いタイミングで起きてしまった。汪氏は中央政治局常務委員会という最強の地位を他の有力候補者と争っている最中だ。そのライバルの一人が薄熙来氏である。薄氏は中国南西部の重慶市で共産党委員会書記を務めており、その前任が汪氏だ。

 党指導部は、重慶市で革命精神をよみがえらせ、組織犯罪を撲滅するという大がかりなキャンペーンを行なった薄氏を惜しげもなく賞賛した。指導部の中には、人口3200万人の重慶市が中国の他の地域のモデルであるとさえ言う人物もいる。

 汪氏は広東省での取組みでそのような賛辞は受けていない。広東省は中国のGDPのおよそ11%を占め、広東省の輸出は中国の輸出の3分の1に上る。中国の経済改革が約30年前に広東省で始まってから、広東省は急速に中国の製造の中心地となったことで、中国を先導する地域とみられていた。

 汪氏は経済改革を推し進めようと試みた。増城市にあるような低価格品を製造する工場の閉鎖や移転の監督、高価格品を扱う製造業やサービス業への投資の奨励、広東省内の都市部と農村部の所得格差の縮小などに取り組んだ。汪氏の戦略は、労働力も土地もその他のビジネスコストも安い重慶市を含む内陸地域からの競争を原動力としている。

 その結果、汪氏によると、広東省の外から流入する出稼ぎ労働者の数は2007年から2010年の間でほぼ200万人減少した一方で、広東省内の農村部から出稼ぎ労働者の数はほぼ250万人増加した。

 汪氏は広東省の省都の広州市をさらに国際的な都市へと変貌させた。広州市では昨年、アジア競技大会が開催され、近未来的なオペラハウスの設計にイラク出身で英国在住のザハ・ハディッド氏の協力を求めた。

 しかし、汪氏がシンガポールの「幸福と社会的文明」に張り合う努力をしても、騒動やその他の社会問題で繰り返しかき消されてきた。その騒動の中心は基本的な公共サービスの多くを受ける資格のない出稼ぎ労働者である。

 汪氏に送った質問10問のうち、微妙な問題に関する5問については回答が得られなかった。この5問の中には、社会問題に対処するために、非政府組織への依存度を高めるつもりがあるかどうかをたずねるものも含まれる。非政府組織は長い間、党の直接の支配を超えて活動しているものとみられている。

 しかし、汪氏は、他の省出身の出稼ぎ労働者への職を減らし、抑制のきかない成長よりも「幸福」に基づいて、高価格産業主導の経済モデルに移行することがいかに複雑であるかについて説明を試みた。

 汪氏は、「産業の転換と向上は困難なプロセスである。例えて言うなら、湯船の水を入れ換えるには2~3時間あればいいが、大きな貯水池の水を入れ換えるにはおそらく10~15日かかるだろう」と述べた。

 「広東省はどこにも負けないほど巨大な貯水池である。ほんのわずかな変化が全体の状況に影響を与えかねない」

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